タイトルの「勘違いさせる力」というのは、錯覚資産のことです。
本書でいう錯覚資産とは「他人が自分に対して持っている、自分にとって都合がいい思考の錯覚」のことを指します。 それは認識の歪み(認知バイアス)によって引き起こされます。
認知バイアスを引き起こす脳の特徴
自分自身の思考の錯覚を自覚することは、誰にとっても難しいものです。しかし脳の特徴を知ることで、認知バイアスに気付きやすくなれます。本書では次の三つの特徴が紹介されています
脳は、過剰に一貫性を求める
心理学用語でいうと、「認知的不協和を解消しようとする」です。
例えば「たばこは体に悪い」という認知と「自分は喫煙する」という行動は一貫していません。「なぜ体に悪いのにたばこを吸い続けているのか?」という不協和は、脳にとって不快なものです。
そこで脳は認知を捻じ曲げて、両者を一貫させようとします。たばこの場合、行動を変えてたばこをやめるより、認知を変える方がかんたんです。
「無理に禁煙するとストレスで逆に不健康」「祖父は喫煙していたが長生きだった」「軽いものに変えたから大丈夫」…などなど。
このように、脳は一貫性を求めるあまり認知や記憶を書き換える、というのが第一の特徴です。
脳は、過剰に原因を求める
ぼくも学生の頃心理学の授業を受けていたのですが、実験はデータを取って終わりではありません。統計的な処理(検定)を行ってはじめて、仮説が実証されたかどうかを結論付けることができます。逆に言えば、検定を行わないと 「偶然仮説に沿った実験データばかりが取れたため、本当は誤っている仮説がたまたま正しく見えた」という可能性を否定できないのです。
しかし脳は、そこまで厳密な手続きをとって仮説を検証したりしません。そこで、偶然に過ぎないことや不十分なデータしかないことでも、強引に原因を見出す。これが第二の特徴です。
脳は、過剰に結論を急ぐ
第三の特徴は、その時すぐ思いつく情報だけで、無理やり結論を出しがちというものです。必要な情報が揃っていなくても無理やり結論を出し、判断が難しい時は(さも自分で判断したかのように)デフォルト値を結論とする。
そういえばデフォルト値で思い出したんですが、独裁国家のイメージが強い某国でも、毎回選挙は行われているそうです(池上さんが書いてた)。ただしその選挙は「信任」がデフォルト値で、不信任の場合だけ投票箱に用紙を入れるのだとか。係員が見てる前で。…そら支持率100%になるわ。
脳の特徴を踏まえて、どう行動するか
ここまでの特徴を理解すると、思考の錯覚に少し自覚的になれます。ぼくは次の点に気を付けようと思いました。
・第一の特徴に対して、多角的に情報を収集して、粘り強く判断する。直感に飛びつかない
・第二の特徴に対して「一度うまくいった人は次もうまくいく」とは限らないと意識する
※ただし、他人の認知バイアスを指摘すると軋轢を生む。内心思うだけにしておく
・第三の特徴に対して、検討結果が均衡している場合は、デフォルト値の重み付けを少し軽くしてみる
※例:現在の職場(デフォルト値)と転職先の比較など
錯覚資産の運用
脳の特徴を利用した、錯覚資産の具体的な運用方法は次のとおりです。
まずは小さな成果を出す
・運ゲーと割り切ってチャレンジ回数を増やし、成功確率を高める
(才能があるかどうかを考えすぎて消耗しても仕方ないので、とにかく色々やってみる)
・最初は小さく賭ける。失敗したら再起不能になるようなチャレンジはしない。どうせ大きく賭けるなら、錯覚資産を手に入れて「確変」に入ってからの方が勝率は高い
・具体的な数字や凄そうな肩書きなど、思い浮かべやすいものだとより良い
・本を書くことや講演等、自分のプレゼンス(存在感、発言力)を高める行動も効果が高い
成果を錯覚資産に変える
成果を出しただけで、自動的にそれが錯覚資産になるわけではない。多くの人が思い浮かべやすいようにする。
※特にディシジョンメーカー(自分の環境を変える力を持つ意思決定者)に良い印象を持ってもらえるようアピールする
・自分の錯覚資産について知っている人を増やす
・何かあった時に思い出してもらいやすいよう、定期的にコンタクトをとる。SNSも活用する
※相手が思い浮かびやすくなるような、具体的なイメージを印象付ける。キャラ付けは分かりやすくする(一貫性!)
より良い環境で新たな成果を手に入れる
錯覚資産を手に入れると、自分の実力以上に評価してもらえるようになる。そのため、新しいチャレンジの機会が増え、環境(業務課題、顧客、上司、同僚、部下)も改善が期待できる。そうした環境下では、より良い経験を得られるため実力が伸びやすいし、チャレンジの成功確率も高い。結果手に入れた成果を新たな錯覚資産とし、運用のループを回す。
その他の気付き
スキルアップだけに励むのは効率が悪い
「錯覚」資産というとあまり良いイメージではないかもしれません。実力なんてどうでもよくて、ただ凄そうなイメージで周囲を錯覚させている人間が成功している、みたいな不誠実さがつきまといます。そうすると実行に移すことに抵抗があるかもしれません。
しかし読んでみて思ったのは、錯覚資産はスキルアップしやすい環境を得て実際に実力を高める手段でもあるということです。それに、実際に結構な数存在する錯覚だけの存在を駆逐するためには、自分も錯覚資産を手に入れる必要がある。
…なんか昭和の仮面ライダーみたいでかっこいいですね。悪の組織に対抗するには、同じ力を手に入れた自分が、悪に染まらないよう正義の魂で制御して戦わなければいけない的な。
成功者のやり方を鵜呑みにしない
ある人が成功した要因のうち、錯覚資産と実力の割合は分かりません。でも脳はそれを「実力があったから・方法が正しかったからだ」と結論付けたがると考えると、「成功者のやり方を忠実に再現すれば自分も成功できる」という論理の信頼性は薄いです。鵜呑みにしないようにしよう。やり方を取り入れるなら、小さく賭けられる範囲で。
他人と張り合ってはいけない
(言い方は悪いですが) 他人が持っているプラスの側面はすべて利用価値と考えることで、むやみに張り合うことがなくなると感じました。考えてみれば、他人と張り合うのは自分の有用性を認めさせて自分のポジションを守りたいから。その視点は作業者・プレイヤーのものに他なりません。
マネージャーや監督の視点で、「どのポジションに配置すると強いチームになって結果を出せるか」を意識することで、他人ともめることが少なくなりそうです。この考え方はとてもいいと思いました。
この投稿のINPUT
人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている/ふろむだ
(ISBN978-4-478-10634-1)
以上です。読んでくれてありがとうございました。
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